    リスボンのベレンの塔のふたり
    
リスボンは、大西洋に注ぐテージョ川の河口から約12km上流の 
右岸に位置する、ヨーロッパ大陸最西端の首都である。 
「7つの丘の街」と呼ばれる起伏が激しい土地である。
  
リスボン中心部からテージョ川沿いに6kmほど西にあるのがベレン地区である。 
15世紀初め、ヨーロッパ列強が争っていた時代に、 
ポルトガルが悠然と道の海へと乗り出した。 
輝かしい大航海時代の幕開けである。 
エンリケ航海王子は海洋国ポルトガルの創始者となった。 
ベレン地区には、大航海時代を代表する歴史的建築物が残されている。
  
ジェロニモス修道院は、首都であるリスボンのベレン地区にある修道院である。 
ポルトガルを代表する世界遺産として、1983年に登録されている。 
マヌエル様式の最高傑作ともいわれ、大航海時代の富をつぎ込んで建築された。
  
ベレンの塔は、マヌエル1世の命により1515年に着工した。 
建築家フランシスコ・デ・アルーダが指揮を執り、1520年に完成した。 
河口を守る要塞として造られたが、税関や灯台としても使われた。 
マヌエル様式の優雅なテラスを持つこの塔を、司馬遼太郎は、 
ドレスの裾を広げた姿にたとえて「テージョ川の貴婦人」と表現している。
  
そのベレンの塔の前にいたふたりである。 
「まだ、開館まで1時間以上あるから、行列はできていないわね。」 
「人数制限のおかげで、いつも行列がすごいよ。」 
「歴史ある塔だし、階段がすごく狭いしね。」 
「そうだな。制限しないと中で動けないかも。」 
「人のいないうちに写真は撮っておかないとね。」 
「そうだな。行列が出来ると写真どころじゃないからな。」 
「きれいに撮ってよね。」 
「まかしておけって。貴婦人よりきれいに撮るさ。」
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