公園のベンチのふたり
リスボンのテージョ川の河口付近はベレン地区と呼ばれ、
多くの冒険家が世界に旅立っていった歴史的な場所である。
ベレン地区は、市内中心から離れており、路面電車か、バスを利用する。
便利なのは、路面電車15番で、フィゲイラ広場を出発して、
国立古美術館やジェロニモス修道院を中心としたベレン地区を通る。
ジェロニモス修道院はヴァスコ・ダ・ガマのインド航路発見を記念して、
エンリケ航海王子が設計した礼拝堂を基に、
マヌエル1世によって作られた修道院である。
設計者は、多くのマヌエル様式の建物を残した巨匠ボイタックである。
彼の死後はスペイン人のジョアン・デ・カスティーニョが引き継いだ。
1502年から19世紀に至るまで完成に長い年月を費やした。
膨大な建築費は多くの植民地から徴収するなど、
大航海時代の栄華を象徴した建物ともいえる。
そのジェロニモス修道院とテージョ川との間に広い公園がある。
6月の初め、ジャカランダの紫の花が満開であった。
その公園のベンチにいたふたりである。
ちょうど、木陰になっており、さわやかな風が吹いていた。
「のど乾いたでしょう。お水飲む?」
「いや、君が飲むといいよ。」
「水分補給は、大切なのよ。」
「まあ、いいさ。」
「熱中症になると困るわよ。」
「そうだな。そんなに言うなら、少し飲むかな。」
「あなたには、子供のために、ずっと働いてもらわないといけないもの。」
「えっ~できたのか!! ようし、子供のために、がんばらないとな。
もう1本、買ってくるよ。ついでにアイスもな。」
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