黒マントのふたり
リスボンから列車で約2時間、バスなら2時間半の場所にあるコインブラは、
政治のリスボン、商業のポルトに次ぐポルトガル第3の文化都市である。
丘の上の大学を中心に広がる人口10万人ほどの小さなまちだが、
ポルトガルの歴史のなかで果たした役割は大きい。
多くの政治家や文化人たちを世に送ったコインブラ大学は1290年に
ディニス王によって創設された。
最初はリスボンにおかれていたが、その後コインブラに映ったり
リスボンに戻ったりしながら、1537年コインブラに落ちついた。
ヨーロッパでもパリ、ボローニャ、サラマンカに並ぶ古い大学で、
1911年にリスボン大学が建立されるまでは国内一の学術の中心地であった。
学生は黒いマントに身を包み町中を闊歩し、
そのマントの裾に切れ目が多いほどもてる証だったという。
サンタ・クルス修道院は、1131年にアフォンソ・エンリケスによって建てられ、
16世紀にマヌエル1世が大規模な改装を行っている。
本堂の左側にある説教壇はニコラ・シャンテレーネによるもので、
ポルトガル・ルネッサンス彫刻の傑作である。
祭壇の両側にはアフォンソ王とその息子サンショ1世の墓がある。
サンタ・クルス修道院内では、ローマ時代の土台の上に16世紀に造られた
マヌエル様式の回廊 Claustro、グラン・ヴァスコらの作品がある聖器室 Sacristia、
参事会室 Capitulo が見学できる。
サンタ・クルス修道院は、5月8日広場の前にある。
ポルタ・ジェンヌ広場からメインストリートをぬけた場所である。
商店やカフェが建ち並び、ここが商業の中心地となっている。
その、サンタ・クルス修道院を出る黒マントのふたりがいた。
コインブラ大学の伝統の黒マントである。
ちょうど、コインブラ大学の卒業イベント中であり、卒業生なのかもしれない。
頭2つ分もの身長差が目を引いていた。
「もう、コインブラの町ともお別れね。」
「君は、故郷に戻るんだったね。」
「私は、故郷の病院で働くことになっているから。」
「僕が、医者になるまで、待っていてくれるかい。」
「もちろんよ。首を長くして待っているわ。」
「ありがとう。がんばるよ。」
「首が長いお化けになる前に迎えに来てね。」 ・・・
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