「ポー君の旅日記」 ☆ 手描きアズレージョの宝庫のフロンティア宮殿のリスボン22☆ 〔 文・杉澤理史 〕
≪2018紀行文・23≫
=== 第4章●リスボン起点の旅 ===
アズレージョ好きな野老(ヤロー)が吃驚吃逆(びっくりしゃくり)したユニークな〔フロンテイラ侯爵邸〕庭園も良かった
《ショータイム2態》
今回初めて首都リスボンでの定宿にした4泊目の〔ペンサオ・ノヴォ・ゴア〕。
7時半からのモーニングタイム前の6時には起き、嬉々として早朝散策に出た。
日本での日常生活時には出来ないことも、時間に区切りがある旅先での約束事は、〔難なく簡単に何事もなく〕朝飯前(あさめしまえ)なのだ。
目前のフィゲイラ広場の北側にある〔マルティン・モニス広場〕で、毎朝早起きの中華人の婦人たち9人が太極拳をゆったりしたメロディにのせ舞っている。
6月初旬とはいえ、朝晩は薄寒い。でも、リスボンに来たら連絡なしに立ち寄る早朝の儀式の太極拳撮影は、了解済みだった。
婦人たちの吐く艶(あで)やかな息使いは、朝陽の中で白く尾を引いた。
路面停留場から数人を乗せ、12番の路面電車がレールを鳴らして動き出す。始発かも知れない。
その向こう遥か先、南の方向高台に〔サン・ジョルジェ城〕が左からの朝陽を受け、浮かび上がって見える。綺麗だ。
この光景は初めてだと、野老は持参の必殺地図に[注・撮]と記入。
写真家のデジタル一眼レフカメラが〈バシャ、バシャ〉と鳴る。
静かな早朝に響いたシャッターの音は、心地良いものだ。
城壁に立てられた遥か先のポルトガル国旗が朝風に揺れ、その上空はまさに真っ青だった。
指折り数えたら、ポルトガル共和国滞在16日目の、6月2日、土曜日だった。
只で頂けるモーニングも明日までだ。明後日(あさって)は帰国。
8時前には、リスボン空港カウンターに並んでいる。
只のモーニングを目一杯食べ、8時10分、ふたたび宿を出て目の前のフィゲイラ広場を突っ切リ左折すると、
通りの先に〔ロシオ広場〕中央にある円柱の頂から広場を見下ろしている初代ブラジル国王になったドン・ペドロ4世のブロンズ像が、ジャカランダの大樹に咲く青紫色の花弁越しに見えた。
ホテルやレストラン、土産店、会社、集合住宅などの高さ20mほどの建物群が広い公園を楕円形に取り囲む。
その東側上空に昇っていた太陽が、5m以上の水柱を吹き上げる大噴水の背後から、薄暗かった視界を強烈に照らす。
浮かび上がった白い艶姿(あですがた)の飛沫(しぶき)は、踊って見えた。飛沫の塔は眩(まぶ)しく美しかった。
早朝散歩をしていた人々は歓喜の声をあげて悦ぶ。野老(ヤロー)も、その一人だった。
写真家はこの景観を予期していたように、既にシャッターの音を鳴らし続けていた。
噴水を囲むように集まって来た人々は、スマホ片手に感嘆の声をあげ、スマホのシャッター〈絵柄〉を触る。
写真を撮る醍醐味は、シャーター〈ボタン〉を切る右手人差し指の肉球に伝わる、あの一瞬一瞬の感触感動ではないだろうか。
その光景こそ、まさにロシオ広場の北側にある〔ドナ・マリア二世国立劇場〕前の大噴水が、飛沫で奏でる朝一番のショータイムだった。
いく筋も立ち上がる水柱が細かな霧状に粉砕され、落下する何万もの粒子。
その粒子状の水玉一つ一つを、太陽光線のスポットライトが照らす。
それはまるで、手触りのやわらかい透けた布、白い絹のベールのように舞い散って見えた。
『惚れ惚れって、これだよね』と、相棒の写真家の瞳が濡れた。ジャカランダの大樹が公園内部を囲むように植えられ、青紫色の花弁も徐々に見ごろになって来た。
そのシルエット気味のジャカランダ越しに、写真家は乱舞のベールの白い水玉模様を撮る。
朝日の中に浮かぶ大噴水の飛沫は、ロシオ広場に立つた白い衣装で着飾る中世の貴婦人を彷彿させてくれた。
「けいの豆日記ノート」
リスボンで6泊するので、いい部屋を用意してくれたのだと思う。
入り口受付の真上になる角部屋を用意してくれた。
その部屋の窓から公園の横の停留所が見えた。
路面電車の始発となる停留所である。
2方向の路面電車が次々とやってきて止まった。
電車好きには、たまらない部屋であった。
モーニングルームは小さかった。
ホテルの上の階が工事中であることもあり、工事の職人らしき人たちが大勢いた。
泊まりがけで工事をするのであろうか。
廊下の隅には、トイレと洗面所の段ボール箱がいくつも積んであった。
泊まった部屋は、改装が終了した部屋だったので、新品のトイレと洗面所がうれしかった。
《地下鉄Metroに乗ってアズレージョ》
これまでポルトガル各地のアズレージョ(装飾タイル画)を観て来たが、今回は是非とも写真家が探してくれた)アズレージョスポットを観たいと思い、足手搦(あしてがら)み状態なれど、奮起一番した。
噴水を背にし、レスタウラドーレス広場に向かう左手直ぐに、お馴染みのユニークな2つの馬蹄形をした入り口がある〔ロシオ駅舎〕ビルに入る。
エスカレーターに乗って建物の反対側にある、地下鉄Metroアズール(ブルーライン)の〔レスタウラドーレス〕駅から6駅目の〔ジャルディン・ズロジコ〕駅で下車。
プラットホームの壁全面は白を基調に焼き付けられたアズレージョタイルに、長い口ばし黄色い柔らかそうな胸毛に青い飛び羽根の鳥たちの5態画は、タイル枚数3400以上、
猫みたいな横柄虎模様の虎2頭画は、タイル枚数546の〔アズレージョ装飾作品〕で仕上げられ、飾られている。
鳥たちのアズレージョ枚数はもうちょっと、と言うところで車両がプラットホームに進入して来たため、タイル1600枚までは数えたが無念。
残りタイルは全体画の半分より少し多かったので、推測で1800枚ほどとし全体で3400枚と見た。
これこそアバウト枚数の極地である。ここは、動物園が目の前1分の〔動物園前駅〕のプラットホームであった。
リスボンの〔Metroプラットホーム〕は、60ヶ所ほどあり、その壁にはポルトガル伝統作品の〔アズレージョ・装飾タイル画〕で飾られているプラットホームが目立ち、市民に親しまれている。
余談だがリスボンの地下鉄プラットホームの壁面アズレージョ作品をほとんどカメラに収めた人がいる。
相棒のカメラマンだ。行き先に用もないのに地下鉄路線に乗り、降りては撮り、撮っては乗りの【リスボン地下鉄路線プラットホーム壁面アズレージョ巡りツアー】なんて、乙(おつ)じゃないですか。
「良いと思うんですがね〜。エッ?乙かれ様・・・もっとインパクト欲しいなぁ。」
「けいの豆日記ノート」
リスボンの地下鉄は4路線あるが、端から端までは乗ったことがない。
路線ごとに駅のデザインが違っていて、工事をした時代を表しているのかもしれない。
時間があれば、1日乗車券でずっと乗っていたい気持ちがある。
だが、地上を走る路面電車のほうが魅力的であるため、必要のあるときだけの乗車となる。
リスボンに長期宿泊できて、雨が続いてどこにも行けない場合、ぜひ各駅停車の旅をしてみたいと思う。
野老(ヤロー)が住む愛知県知多半島には地下鉄はないが、愛知県庁名古屋市の地下鉄のプラットホームは意外と狭く、天井も低いところが多い。
日本の国土の4分の1しかないポルトガル共和国の〔地下鉄Metro路線〕は、意外と駅空間にゆとりがあった。
1863年に世界初の地下鉄がロンドンで誕生し、パリやニューヨークに次いで世界各地に地下鉄が建設された。
しかし、「狭い、暗い、怖い」と言った圧迫感をぬぐえぬ地下鉄を、少なからず目にし耳にした人も多いはずだ。
だが、そんな粉飾を払いのけたユニークな地下の美術館みたいな駅舎、プラットホームの地下空間を、数多く取り上げた初の書籍《世界の地下鉄駅》(2017年発行・青幻舎)は、
世界各国から〔これぞ世界の地下鉄駅〕☆ヨーロッパから20ヶ所 ☆北・中央・南アメリカから8ヶ所 ☆アジアからも8ヶ所の〔36ヶ所〕を厳選、紹介提供してくれた。
『世界の地下鉄駅』ヨーロッパ20ヶ所の中に選出された、《カラフルなタイルアートに華やぐリスボンの万華鏡『オライアス駅』(ポルトガル/リスボン)》掲載を、発見。
昨年2017年11月27日に発行された本だったが、写真家は目ざとく情報をキャッチし今回で10回目の〔2018撮影取材旅〕の中にやり繰りし、
2日目の行動工程に〔オライアス駅見物〕を組み込んだ。
3日目に行くポルトガル南端のアルガルヴェ地方の中心地〔ファーロ〕までの長旅急行列車のチケットを押さえる、つまり購入しておくために、
〔オリエンテ〕駅まで1kmほどの近場宿から歩き、切符購入後は、なかなか来れなかったテージョ川に面した1998年に開催された〈リスボン万国博覧会〉会場跡地が壊されることなく、
今も市民の憩の場〔国際公園〕として維持管理され、20年も生き残っている姿を見に行った。
これは凄いことであった。
1970年と1990年の大阪万博や2005年の愛知万博の跡地にはもう施設は残っていないが、〔リスボン万博1998〕のテージョ川に面した広大な会場跡地は〔国際公園〕として残り入場無料。
欧州最大級の海洋水族館には1万5千匹が飼育され、川辺を走るゴンドラに乗って対岸まで18km伸びていく〔ヴァスコ・ダ・ガマ橋〕の雄姿も体感できた。
それが地下鉄オリエンテ駅下車し、ショッピングセンターを通り抜けると目の前に広がっている。
〔オリエンテ駅舎〕は、地下鉄とポルトガル鉄道、それに〔ヴァスコ・ダ・ガマ・ショッピングセンター〕と一体化した総合駅舎施設の大ショッピングセンターであった。
その〔オリエンテ〕駅から旅の2日目〔地下鉄Metroレッドライン〕5つ目の〔オライアス〕駅に予定通り、足を運んだ。
「けいの豆日記ノート」
メトロのオライアス駅は、最も美しい地下鉄駅のひとつに選ばれている。
鉄道関係の本でこのオアイアス駅のことを知り、途中で降りでみることにした。
オリエンテ駅から5つ目の駅である。あまりこの路線は乗らないので気が付かなかった。
建築家トマス・タベイラによる設計と芸術家グループによるインスターレーションのコラボが壮観である。
壁面を覆う幾何学的なタイルや金属仕様の支柱、華やかなステンドグラスなど遊び空間が広がる。
《地下鉄Metroオライアス駅》
1998年「リスボン万博博覧会」開催の年に、〔オライアス〕駅も開業していた。
Metro車両が滑り込み、ドアが開き、プラットホームに一歩踏み込んだ途端、『天国か地獄か!さ〜ァ、どっち?』の選択を強制された野老は、想像もしていなかった色彩の渦に巻き込まれて、
てんやわんや状態のこころ落ち着かせ、思案涙。
今まで見ていた地下鉄路線駅プラットホームとは別世界の色模様に、ただただ野老は色彩の洪水に一瞬驚いたものの、その繊細的組み合わせに驚嘆したのだった。
アズレージョ(タイル装飾画)は、「タイルアート」と呼びたくなる程の絢爛豪華さに、どこに視点を置いたら良いのか判断に困った。
何しろ天井も壁も床も、何処を見てもその色鮮(いろあで)やかさに目移りし、戸惑った。
まさに、本のキャッチコピー〔万華鏡の世界〕であった。
エレベーターホールの天井は13mほどあり、赤青黄色緑などの幾何学模様で彩(いろど)られ、高い壁も色彩乱舞のアズレージョ模様、一声で言うならタイルアート模様色。
床は大理石では表すことが出来ない色彩デザイン色模様続きのプラットホーム。
ふたつのプラットホームには大人3人で抱え切れないほどの円柱が10本ばかり13mほどの高い天井に伸び、支えている。
高さは測れないので、全て78歳野老(ヤロー)の目尺である。
本の著者は、【リスボンメトロの各駅は趣の異なるカラフルなアートが多数。中でもオライアス駅は最も美しい地下鉄駅のひとつで、建築家トマス・タベイラによる設計と、
ポルトガルの芸術家グループによるインスタレーションのコラボが壮観。
壁面を覆う幾何学的なタイルや金属仕様の支柱や鮮やかなステンドグラスなど、万華鏡を覗いたような遊び心ある地下空間が広がる。】と、水野久美さんは結んでいる。
首都リスボンの〔地下鉄Metro〕は、アズール(ブルーライン)・アマレーラ(イエローライン)・ヴェルデ(グリーンライン)・ヴェルメーリャ(レッドライン)の4路線。
プラットホームも車内も掃除がいき届き綺麗。車中は日本の地下鉄に乗っているみたいに静かで、声だかに喋るやからも、楽器を奏でるやからもいない。
その静けさは日本的で、野老はすきだった。また、バス路線よりMetro路線の方が進路が明快で安心だった。
地下鉄(ゾーンL内)と路面電車を、飽きるまで「乗り放題」の〈リスボンカード〉を買えば、短期間に観光名所を見て回りたい人に「便利で安くてお得な」カードだった。
「けいの豆日記ノート」
リスボンカードは短期間に観光名所を見て回りたいという人に便利なカードである。
料金は、24時間で19ユーロと少し高い。
ちなみに、48時間32ユーロ、72時間40ユーロであるので、リスボンに滞在して施設をまわりたい人向けである。
空港や市内のトリズモ(インフォメーション)で購入できる。
いつも利用しているのは、リスボンカードでなく、ヴィヴァ・ヴィアジェン Viva Viagem という地下鉄の自動販売機で購入できるカードである。
料金は、24時間で6.4ユーロでリスボンカードの3分の1の価格である。
施設の割引(無料ではない)や国営鉄道の無料はないが、市内のメトロ、バス、路面電車、エレベーター、ケーブルカーが無料になる。
たくさんの施設に行く予定はないので、交通だけが無料で充分なのである。
1日でなく、24時間というのが、とても助かっている。
昼に買えば、翌日の昼まで使えるのがいいと思う。
《夢物語》
『さてさて、お急ぎのそっちの品のいいおばあちゃん、地下鉄や路面電車(市電)はもとより、バス、ケーブルカー、エレベーターにも使えるし、ポルトガル鉄道のシントラ線とカスカイス線も乗り放題。
それだけじゃないよ、リスボンと周辺の見どころ食べどころが無料や割引、はたまた、リスボン空港バスや観光バスなども割引になると言う、
人生観ぽろっと変わるほど、めでたし満載の【リスボンカード】ドドド〜ンと持ってきなッ!』と、あの〔寅さん〕も思わず図に乗って、吐いた啖呵を慌てて引っ込めるほどの体たらく。
そう言えば、車寅次郎は、〈哀愁の古都リスボン〉がよ似合う、とポルトガルに来る度に思い続けていた。
粋な〔帽子腹巻きWの背広に雪駄〕。
それに、茶色の古典的デカい皮鞄を片手に、リスボンの路面電車の運転手に『よッ、ねえちゃん!お仕事今日も、ご苦労さん!』なんて、
あの笑顔で一声かけて乗り込んだ寅さん、ピッタシカンカンだよな〜、と野老は嬉しくイメージをふくらませ、溜め息した。
ため息ついたのは野老だけじゃない。満員の路面電車が大好きな〈名物集団スリ野郎〉たちも溜め息つくしかないのだ。
寅さんのあの細い目でギョロリ睨まれすくみ上がり、とろける笑顔にもすきは無い。
でも、車寅次郎にはリスボンの街を一度で良いから肩で風切って歩いて欲しかった。
「けいの豆日記ノート」
以前、ポルトガルに行き始めた頃、路面電車でスリに遭ったことがある。
路面電車がフィゲイラ広場から発車しているので、停留所で並んで待っていた。
そこで、日本人の旅行者に出会い、いっしょに電車に乗った。
先に乗り、乗車カードを読み取り機にタッチしてショルダーバッグにしまった。
出会った日本人の人がやりかたがわからなくて教えていた。
ふとカバンを見ると、カバンの口からビョ〜ンとヒモが伸びていた。???!!
ヒモの先は遠くて見えなかった。
思わず、ヒモをひっぱりたぐり寄せると、財布が戻ってきた。
スリにすられたのである。
盗難防止の為に伸びるヒモを財布に付けていたので、財布は戻ってきた。
気がついたのが早かったせいか、出しやすいとこに入れていた見せ金の5ユーロ2枚だけがなくなっていた。
ショルダーバッグは身体の前にあったのに、横を向いて気がそれた一瞬にやられてしまったのだ。
きっと、スリの集団に狙われてしまったのだろう。
スリの方が頭がいいと思うので、財布にはヒモをつけて、お金は最小にすることが大事である。
《リスボン交通図》
アズレージョ好きには見逃せないスポットに行った。
写真家が探し出した、掘り出し物だ。
取りあえず、地下鉄の〔ジャルディン・ズロジコ〕駅の地上に出た。
この駅は動物園には近かったが、目的地に行くバス停はなかった。
露天バスターミナルは、ポルトガル鉄道CPの〔セッテ・リオス〕駅にあることは写真家は承知していた。
が方向音痴の野老はガイドブックの【リスボン交通図】を見て、地下鉄ブルーラインとポルトガル鉄道CPは交差し、駅の〔マークは一つ〕。
そこに左右に駅名が書いてある。〔ジャルディン・ズロジコ〕と〔セッテ・リオス〕。
しかし、ふたつの駅は実際には300m程離れていようとは想定外だ。
写真家の後を着いて、やっとこさ足もも痛さを堪えて抜き歩き〔セッテ・リオス〕駅前のバス停ターミナルに着く。
バスの姿もちらほら。土・日曜日、祝日は、特に注意して情報をかき集めて置かないと発着時間は掴みにくい。当日の現場処理能力が鍵だった。
乗り場バス停をやっとゲットした。待つ客はいない。
写真家は野老を残し、『ちょっと調べたいことがあるから、ここを動かないように!』とひとこと言って、居並ぶバス停を〈義経の八艘跳(はっそうと)びの如く〉
高いハードルを難なく飛び越え走るランナーであった。元気が良かった。
2年後の〔2020年7月24日から8月9日〕までは、オリンピックデーの筈だ、と野老はふと思ったりもした。
車体が黄色い洒落た〈770番 SETE RIOS〉バスに乗って15分ほど。モンサント森林公園の北側にある〔マルケゼス・デ・フロンテイラ侯爵邸〕停で我らともども5人下車。
土曜日にしては少ないと感じた。腕時計は、10時30分だった。
「けいの豆日記ノート」
動物園前のメトロ駅から地上に出た。
バスターミナルのような建物の中でなく、広場にローカル線のバス乗り場が並んでいる。
ガイド本に、「770番のバスに乗る」の記載があるが、770番のバス停がどこなのかわからない。
バス停の場所の案内地図は見当たらないし、こういうときには、人に聞くしかない。
周りを見渡すが、どこのバス停も閑散としていて人が居ない。
やっと、あるバス停にだけ3人いたので、聞いてみることにした。
「770」の数字をメモに書いてジェスチャーで教えてもらった。
指さしをしてくれたバス停の時刻表には、770番の数字があった。
《フロンテイラ侯爵邸》
青空に白い雲が張り出していた。
1mほどの石組みの上に、飾り鉄の塀で囲まれた煉瓦色の建物が坂道のひだり上に見え、左右の石柱の上に石像が飾られ、門扉の鉄扉を内側に女性係員が開け、入門を即した。
内庭は意外と広い。たくさんの観光客にも耐え得る空間だ。
当然、壊れた箇所もない白っぽい石畳が敷かれ、黒石魂で星模様が組み込まれていた。
煉瓦色の2階建て側面は奥が深いようだ。均等に白い縁の同型窓で飾られている。
入園料は9ユーロだが、室内は工事中のため、庭のみ料金の4ユーロだった。庭園に入る鉄扉は開いている。
開いた鉄扉越しに見えた幅4mほどの踊り場風敷石は、大きな平石で組み敷かれ、石造りの手摺と共に右奥に伸びている。
その手摺りの向こうは、広々とした緑の庭園が広がって見えた。維持管理が大変だろうな、と老婆心ながら思ったりもする。
野老はまず左手の庭園の奥から、右手2階建の〔フロンテイラ侯爵邸〕の建物を見てみたいと思う。
庭園はよく手入れが行き届き、縦横まっすぐに刈り込まれた植木が幾何学模様を形作っていて、丸く刈り込まれた植木も均等に配置されている。
ポルトガルの各地で見られる〔宮殿庭園〕様式の刈り込みだ。
「けいの豆日記ノート」
フロンテイラ侯爵邸が、アズレージョで有名な建物だということは知っていたが、場所が市街から離れていることもあり、行く機会がなかった。
今回、リスボンの滞在期間が長いこともあり、行きたいと思った。
バスを降りたすぐ前が入り口であった。
チケット売り場で購入の際に、建物内が工事中で見られず庭園だけだと聞く。
せっかく来たのに残念であるが、工事中なのでしかたがない。
アズレージョは、庭園に多いので、いいかなとも思う。
建物前の庭園が広がる中央部スタート地点にはお洒落な噴水塔がある。
豆腐ラッパを裸体の少年たちが吹く台座の上に侯爵の家紋模様から噴水される仕組みの噴水塔だった。
その前後に、幅2m程の小道が刈り込まれ一方は庭園奥に向かって延びている。
その小道には10m間隔に8画形の噴水池に噴水塔が立ち、更にまた規則正しく10m先に3m幅の噴水池に噴水塔が立つ景観が続く。
小道は噴水ごとに左右に分かれ噴水の先で合体し、更に進みと連なるを繰り返しを4ヶ所も続け、スタートの噴水から50mほど先の奥は背の高い樹木が茂り、その先にビル街が垣間見える。
庭園がこんなに広いと知り、実感できた野老だった。
正面の侯爵邸は2階建ての奥行きが深い構築だった。
最初の噴水塔を建物中央に捉えて見ると、正面建物はまったく左右対称、シンメトリーの世界だった。
煉瓦色の壁を白い縁取り4本が縦に引かれ、その間の壁に左右対称に白い縁取りで窓が仕切られると、グーの音も出ない。
屋根瓦も細かく縦横に平然と並ぶ。もッ、いいかと思う。
ベイラ・バイシャ地方の「モンサント」を訪ねる起点にもなっている〔カステロ・ブランコ〕にある〔宮殿庭園〕に似ているな、と思う。
あそこは、18世紀のバロック様式でアズレージョが美しい階段を上ると、噴水がある池を中心に刈り込まれた幾何学模様の庭園だった。
規模もここと同じくらいの広さはあったと鮮明に過(よ)ぎった。
開いた鉄扉を潜り、敷石の踊り場に出ると、右に正面2階建の建物、左手に庭園が奥まで延び、その先に高いビルが見え隠れする。
その庭園左手奥から視線を右に移行すると大きな池を抱くように青い色の2階建て展示場模様が気になる。
下段は上が弧を描いた窓風展示絵は馬に乗った人物像だ。
上段の展示物は均等に並べられた胸像のようだった。
近づいてみると、なんと騎乗の絵は歴代のフロンテイラ侯爵たちが1ヶ所338枚程のアズレージョタイルで焼かれた、明るい青色の濃淡と白色を基調に描かれていた。
それに縁取りも100枚ほどの青と白基調のデザイン模様で、一人の騎馬風景画に440枚のタイルを使ったアズレージョ作品15点であった。
また上段の胸像はデ・ラ・ロッビア風の蒼いタイルに囲まれた王のギャラリーで、歴代のポルトガル王が並んでいると言うことだった。
昼すぎ20人ほどの幼児が社会学習で訪れる。黄色い感高い声は施設会場を明るくする。
でも、池の水鳥は落ち着き気を失う。
飛び羽を切られた口先赤く先端小さな白帯マスク、目ん玉真っ赤なブラックスワンの番(つがい)と緑色の頭と顔が緑色で輝き、白いネックレスで着飾る雄2羽の真鴨浮遊は珍しい。
それに、白っぽいボディーに青い帽子青い燕尾服、後頭に長い白い飾羽がある〔ゴイサギ〕が池の中央噴水塔に、鋭い黒い爪を持つ4本の長いたくましい指で、鷲掴みする姿を久しぶりで見た。
何故か想像もしていなかったポルトガル首都リスボンの侯爵邸の小さな池で逢えるとは思わなかった。
この館は17世紀初代フロンテイラ侯爵ドン・ジョアン・デ・マスカレニャスが狩猟の館として建てたものだった。
この館が今、人気があるのは人間の衣装をまとった愚行の動物たちを描いたアズレージョや何処か怪しくユーモラスな猟後の解体や料理風景のアズレージョ、
猫の妖しげな人間染みた生態が漫画でなしにアズレージョなどで楽しめるからだろう。
日々人間は些細なことで、枯葉の如く微々たる風にも身を任せ、揺り動かされ舞っていく。
「けいの豆日記ノート」
アズレージョの中に有名なネコがいるというので、ぜひ見たかった。
ポルトガルのお土産とかに描かれているネコである。
かわいいというより、不気味な感じがするネコである。
トカゲとネコの話になっているが、トカゲは服を着ていて人間風であるが、ネコはそのままである。
物語があるのだろうが、どんな話だったのか聞いてみたい気がする。
今日半日は忙しく、何故かのんびりと、でも焦ったり、感動したり、足もも筋肉激痛に一瞬息を呑み、1分間の静止妙薬ご利益抜群に感謝し、
赤い帽子青い帽子の後をただただ追い求め、水より安い1ユーロ生ビールに活路ビンビン、感謝を込めて、今日も暮れ行く異国の丘に。
あすがある、アシタガアル、一晩眠れば、明日がガッチリやって来るのだった。
●漢字に(・・・)と読みを容れていますが、読者の中に小・中学性の孫娘達がいますので了承ください。(野老)●
*「地球の歩き方」参照*
終わりまで、ポルトガル旅日記を読んでくださり、ありがとうございます。
今回分は2020年6月に掲載いたしました。
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