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ちょっと、おまけ画像です。
☆ポルタレグレの説明 (写真の上をクリックすると大きな写真が見れます。)☆
スペイン国境に近いポルタレグレは、古くから戦略上の要にあった。
1290年にディニス王によって城が築かれた。
16世紀以降はタペストリーやシルクの生産地として栄えた。
当時ブルジョアたちが築いたバロック様式の邸宅は今も町のあちこちに残っている。
背後に自然豊かなサン・マメーデ山脈をひかえ、マルヴァオンを訪れる際の起点となっている。
「ポー君の旅日記」 ☆ ジプシーの集まる町のポルタレグレ4 ☆ 〔 文・杉澤理史 〕 ≪2008紀行文・11≫ 《みっか目の朝》 3階の窓を開け階下を見ると、ハンチングをかぶった老人が箒と塵取りで石畳の掃除をしていた。 ゴミ缶2つを手押し車に乗せ坂道を上がって来る。白い子犬が老人の足元にからんでいた。 空は今日も青空が広がっている。路地向かいの家の木にオレンジの実が朝陽で輝いている。 ポルタレグレの三日目の朝だった。 8時のモーニングタイムを終え、10時半発のどんこバスで〈マルヴァオン〉まで行く前に、2時間半の貴重な散策時間があった。 ひたすら歩き続ける旅を続けているふたりにとっては、至福の時間の狭間(はざま)である。 休む間もあってもいいのだが、タイム・イズ・マネー的な貴重な散策が待っていた。 フロントに降りると3人の女たちがパソコン画面を見ていた。奥さんの他は初めて見る顔ぶれである。 相棒が朝の挨拶をすると、「あんたのホームページをここのご主人の勧めで見ているのよ。 アハハ・・・あんたが本人なの・・・日本人の顔は、あんたが初めてよ。 家に帰ったら、旦那にも言わなくっちゃ、日本人に初めて会ったってね!」と、 相棒の顔を見てエプロン姿の30代の彫りの深い美人婦人が言った。 「日本の男の顔は?」と、ポーが言ったが、笑って無視された。 「けいの豆日記ノート」 《早朝の事件現場》 今日もまた、宿から石畳の坂を下った。振り仰ぐ空は眩しすぎる青空であった。 ポーは昔から仕事仲間に〔晴れ男〕と呼ばれている。 ロケの朝、雨が降っていてもいざ撮影現場に着くと、ぴたりと雨はやみ青空が張り出してくる。 まさに、ポーは天の子!だ。ポルトガルに住む知人の証言もある。 ポーが来ると、昨日まで寒い雨が降り続いていたのにぴたりとやみ、この天気よ、太陽が燦々(さんさん)なのよ! あんたはまさに晴れ男だね、と、よく言われる。日本でも通じるのだからポルトガルでも当然通じてもいいとポーは思う。 晴れ男の自慢はさておき、その朝、〈マルヴァオン〉に行くバスに乗るまでの2時間半の狭間を、 早朝から開かれているこの町の胃袋的台所とも言うべき生鮮市場見物に当てた。 市場に行く手前で、30人ほどの市民の激怒の声に遭遇した。 パトカーがプアープアーと鳴らし青いランプ(ポルトガルはランプが赤ではない)を回転させて、警察署の前で止まった。 若い男が手錠をかけられパトカーから両脇を長身の警官に挟まれ降りた。 老人も男も女も子供も、ひと際大きな声を若い男に放つ。若い女が泣いて叫ぶ。 恋人か、妻か。手錠の若い男が若い女に向かって、叫ぶ。老婆が若い男に悲しげに叫ぶ。 若い男が老婆に顔を向け、叫ぶ。この集団の中にポーはあの黒ずくめの白髭の大魔神の姿を見た 。彼の鋭い眼が炎で燃えていた。悲しいかな、意味が判らない。大魔神の仲間の若い男が何らかの理由で逮捕されたのだ。 悔しいが、何があったのかを知りたくても大魔神に聞きには行けなかった。 あ〜、悔しい、ポルトガル語を学ばねば!とポーは切実に思う。相棒のシャッターが泣いていた。 「けいの豆日記ノート」 《看板の顔》 市場の外観は大きく真新しい建物であった。しかし、ビニール袋を下げた客の姿がない。 今日は運が悪く市場が休みなのかと相棒と目線を交わす。 入り口は開いていた。 中に入ると中央が吹き抜けで、2階周辺も売り場がある小奇麗な市場であった。だが、活気がない。 どの町に行っても必ず訪れる市場には日常生活のエネルギーで満ちあふれていた。 でも、この静けさは・・・。 売り手の声も買い手の声も聞こえなかった。 相棒の肩が力なく落ちている。 意気込みが削(そ)がれたようだったが、相棒の視線はそれぞれの売り場の上にある大きな看板に注がれている。 シャッターが息を吹き返した。 横幅2メートル、立て70センチほどの看板には、ピーマンやニンジン、キャベツの美しい写真に≪アンドラデの野菜≫と書いてあり、 眼鏡をかけた大きな胸に白いエプロン姿で微笑んでいるおばさんの顔写真がある。 その看板の下には、写真そのままの笑顔のおばさんがいる。 白髪のおやじの笑顔写真の横には、ブドウとモモの写真に≪私たちは大地の果物≫と書かれ名前もあり、 その看板の下には青い格子エプロン姿の笑顔のおやじがいる。 干し鱈売り場も、花屋も、肉屋も魚屋も、看板の下には顔写真の実物がいた。 果物屋のおやじがオレンジを一つ相棒に渡し、日本人かと聞く。はいと答え、貰ってもいいの?と聞く。 勿論だよ、セニョーラ!と青い格子エプロンに包んだ大きな腹が笑って揺れた。 今日は「ポルトガルの日」の祭日明けのためか、昨夜飲みつかれた市民のご来場が遅く市場に活気がないのだと思うことにした。 「けいの豆日記ノート」 《木立の輝きの中で》 頭の隅に大魔神たちの、集団激怒現場が尾を引いていた。 ポーの薄い収納知識の感でいうと、ジプシーに関係する事件かな、と瞬時に思う。 芝生一面の広い空間に、木立が一杯の葉を茂らせ朝日を受け光り輝いているその下を歩いていた。 ポルタレグレの旧市街からほんのわずか奥に入った新興住宅地であった。 その木々の間からこぼれる陽射しの中で、ポーは先ほど目撃した大魔神の怒りに燃える瞳が脳裏から離れなかった。 大魔神たちがジプシーであると断言はできない。ふと、そう思っただけだが、何故か気になっていた。 ジプシーと言うと、かつて観たフランス映画のモノクロ画面が浮かぶ。 ブドウ収穫時期のフランスの片田舎。 大きな樽の中に素足で入りブドウの実を、長いひだのあるスカートをたくし上げ太ももあらわに踏みつける。 その底抜けに明るい娘たちの笑顔に心をときめかせたものだ。 季節労働者のジプシー生活が青空と広大なブドウ畑の大地を舞台に描かれた映画だった。 ジプシーについては正確な歴史的変遷については定かではないようだ。 6世紀から7世紀にかけてインド北西部から移動を開始したらしい。 世界中でのジプシー人口は600万人から1000万人ほどと言われている。 その半数はヨーロッパで生活をしているようだ。 木内信敬著・白水社「青空と草原の民族」のタイトルのように、国を持たない移動生活者であったジプシーにとっては、 定住社会で生きていくのは難しいらしい。 しかも、近年その生活スタイルに同化する人たちが多くなっているとも言われている。 大学時代の友人にフランスを2年間放浪の旅をしたY君がいた。 彼は熱のこもった目で「おれはジプシーと結婚する」と語り、俺の人生観を変えてくれたと吐いた。 どう彼の人生観が変わったかはわからない。ただ、彼の眼だけが変わっていた。 おどおどしていた目が自信にあふれ眼光が鋭くなっていた。 彼は1年後に再び旅立ち、フランスから絵葉書を2葉送ってきたが、その後の消息は判らない。 岡山の実家に3回年賀状を出したが、返事はなかった。 木立の奥に小学校があった。どの子どもたちも父親や母親に手を引かれ登校していく。 高い鉄柵で校舎周辺が囲まれ、校門では3人の先生が親から子を一人一人預かり、構内に入れる。 一人でやって来る子はいない。3人ほど連れてくる母は隣近所の子かも知れない。 この風景はポルトガルの小学校では当り前である。都会でも片田舎でも変わらない。 登校だけでなく下校時も同じ風景であった。 この習慣は徹底されていた。日本の場合は中途半端に思う。事件があって慌てる。 しばらくすると、慌ただしさが消滅する。集団登校は続いているようだが・・・。 ジプシーの子供たちの教育環境は今、どのようになっているのだろうか。 ポルト市在住の才女YUKOさんに会ったら聞いてみようとポーは思う。 「けいの豆日記ノート」 《もう一つの単語》 〈マルヴァオン〉行きのバス出発時間まで15分あった。 大魔神が気になっていた。警察署前を通ってバスセンターに行くことにした。 あの、30人ほどの人びとの姿はすでになかったが、まだ野次馬の老人たちがハンチング帽に杖の必需品姿で話し合っている。 耳が遠いから声は大きい。 老人たちがしゃべる単語の一つが、ポーの耳に何度も飛び込んできた。 「フォーゴ」火とか火事の単語だ。青年への疑いは、火事が原因なのかもしれない。 しかし、大魔神の怒りの炎の眼には真実があった。 それは、誤解だと! 昨日、偶然会った大魔神夫婦の記念写真を撮った相棒は、立ち話をする老人たちの姿をカメラに収めていた。
その時、老人たちの口から、もう一つの単語を聞いた。
「シガーノ」だった。ポルトガル語のCIGANOとは、ジプシーのことであった。 だから、ポーをとめないで。 *「地球の歩き方」参照*
終わりまで、旅日記を読んでくださり、ありがとうございます。 次回をお楽しみに・・・・・・・2010年6月掲載 |
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