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☆ボルバの説明 (写真の上をクリックすると大きな写真が見れます。)☆
アレンテージョ地方は大理石の産地で有名である。
エストレモスやヴィラ・ヴィソーザの町と共に、大理石によって世界的に知られている。
ポルトガルはイタリア(カッラーラ)に次ぐ世界第二位の大理石輸出国だが、
その85%(37万トン以上)はこの地域で産出される。
普通の家の戸口の階段など、至るところに大理石が使われており、
道路の石畳にも大理石がはめこまれている。
「ポー君の旅日記」 ☆ 大理石発掘現場のボルバ ☆ 〔 文・杉澤理史 〕 ≪2008紀行文・24≫ 《ジュゲムジュゲムの昼食》 ブラガンサ公爵家ゆかりの地〈ヴィラ ヴィソーザ〉の宮殿を出たのは、夏日和が暑い6月18日(水)の午後1時であった。 『腹が減っては戦ができぬ。ポー、昼メシにしようか』と、相棒が吐く。 黄門さまも、バナナ1本と胡麻醤油味煎餅2枚の朝食では腹がぺこぺこに違いない。 ポーだって背と腹の皮がひっつきそうだった。 白い大理石の石畳でおおわれた町のメインストリート、レブリカ広場にあるカフェレストランに入った。 宮殿をガイドしてくれた、ニカッと微笑む顔が何とも言えぬ安らぎをくれるおじさんが教えてくれた店「レスタウラサォン」だ。 相棒がニカッと微笑んで聞きだした。若き頃、オチケンで〈小春〉の名で高座に上がっていた相棒だ。 誰も信じないだろうが「ジュゲムジュゲム」の一席は、今でも空でやってのける。 「平林(ひらばやし)」も得意の持ちネタだ。 だから、おじさんに似せてニカッと笑むなんざあ、お手の物だった。
聞きだした店は、地元でも人気があるらしい。 日替わりランチを一人前とサグレス生ビールを頼んだ。給仕の女性は怪訝(けげん)な顔をする。 無理もない。目の前には、ふたりの大人がいるのだから。でも臆せず、相棒は念を押した。 アクションを大きくして、日替わりランチは一つ、サグレスも一つと強調した。 頷いて去ったが、不安は残る。今まで何度も二人前すらっと、平然とやって来ることが多いからだった。 まず、サグレス生ビールのグラスが1杯、それにソーパ(スープ)がワンカップ運ばれる。
注文が成立したようだ。
スープは、カルド・ヴェルドゥ(ポテトスープをベースに、千切りのちりめんキャベツを煮込んだもの)。 「けいの豆日記ノート」 《ボルバに向かう》 バスターミナルで〈ボルバ〉を通るバスを探す。 2時間後のバスを見つけたが、その2時間がもったいない陽射しが強い午後2時30分だった。 ボルバからここに戻って、〈エヴォラ〉に帰るバスは18時10分発。 それまで、3時間40分。歩いて行く手もあったが、ボルバに行くにはタクシーしかなかった。 大切な時間を短縮するには、お金を使うしかない。即、タクシー運転手との交渉が始まる。 ポルトガル語がろくすっぽ喋れないのに、かつての[オチケン女]は笑顔で交渉を成立させた。 『あのさ〜、ここからボルバまで5キロほどらしいよ。 10分で行けるってさ。基本料金が3・4ユーロだから、5ユーロと折鶴で手を打ったよ』 折鶴は、撮影させてもらった方に感謝のお礼で手渡す千代紙で折った鶴だ。 その折鶴は、相棒の手仕事作品である。 いつも肩掛けバックには、20羽ほどが出番待ちの配慮をしていた。 黒縁眼鏡が似合う50代の白髪の運転手はヴィラ・ヴィソーザの町を抜けると、人影もない2車線の一本道を包み込む草原を飛ばした。 時速100キロメートル、高速道路並みだ。おいおいスピードの出し過ぎじゃんとポーが叫ぶ。 首都リスボンでも深夜タクシーはぶっ飛ばすが、田舎のタクシーも日照りの中をぶっ飛ばした。 これなら5キロメートル10分は嘘ではなさそうだ。しかし、飛ばし過ぎだ、怖かった。 オリーブ畑や牧草地帯がどんどんすっ飛び、ぼた山のような白い大理石の欠片(かけら)が山積みされた景色がフロントガラス越しに迫ってくる。 その白いぼた山をいくつも越えると、タクシーは一本道にある白い像が建つロータリーをぐるりと左折して、しばらく走り白い町に滑り込んだ。 そこが〈ボルバ〉であった。ここも白い大理石がふんだんに使われているのか、町全体が白く見えた。 トゥリズモ(観光案内所)がある建物前で、タクシーは止まった。 運転手は「ここで待っていようか、」と言う。勿論、感謝して辞退した。 この町に来るのが目的ではなかった。 今朝〈エヴォラ〉から〈ヴィラ・ヴィソーザ〉に行くバスの車窓から見えた[白いぼた山]が気になり、 もし、大理石発掘現場を見られるものなら、撮影したかった。 そのためには、歩いて撮影しながらヴィラ・ヴィソーザの町に帰ることにしていた。 まずボルバに来て、トゥリズモで地図と資料を貰い、大理石発掘現場の様子を調べたかった。 運転手には、料金5ユーロと折鶴を交渉時に渡してある。 相棒、オブリガーダ!(ありがとう!)と握手し、ポー、チャウ!(バイバイ!)と手を振って別れた。 「けいの豆日記ノート」 《トゥリズモの若者》 真っ青なポルトガルブルーの空が、白い町〈ボルバ〉を包みこんでいた。 2階建の細長い白塗りの建物には、オレンジ屋根の軒下(のきした)に団子状態に折り重なりへばりついているツバメの巣がずらりつらなっている。 個々に作られている日本のツバメの巣を見慣れているため異質な光景であった。 その1階の一扉に、トゥリズモのマークがある。 今まで訪ねたトゥリズモの中でも、1番小さな入口だ。 中に入ると白いタイル壁に〈ボルバ〉の旗が吊るされ、小さ目の事務机の上にパソコンが置いてある。 その狭い事務所の中で、20代の男女が驚いたような顔をして迎えてくれた。 青年の第一声は、日本人か?であった。相棒が頷き、ポルトガルに来て18日目だと応えた。 相棒の胸に下げたニコンのカメラを凝視し、ニコンかペンタックスかキャノンを使っている日本人はプロの写真家だと吐き、ニコンは憧れだ!と笑む。 相棒が言う、ニコンを持っていればプロなの? 青年は大きく頷き、そうさ!ニコンでも、ペンタックスでもキャノンでも、プロの持ち物さ。 どうもこの青年は日本のカメラに憧れが強いようだ。 ポーだってメモ代わりに使っているニコンのキムタクが宣伝していたコンパクトカメラなのに! 彼はカメラの大きさで決めつけているようだ。 でも、この片田舎で日本のカメラが眩しく青年の心を支配しているとは、思わなかった。まっ、いいか! 瞳の黒目がクリッと愛らしい女性の笑顔が可愛い。その彼女と相棒の会話だ。
「ここボルバは、残念ながら観光地ではないの。今日だって観光客は一人もいない。あっ、久しぶりで2人来たわ。
それも、日本人!あんたたちよ。もう何年ぶりの日本人かも。でも、うれしい、ありがとう!」
相棒も『オブリガーダ!』と、頭を下げた。 「けいの豆日記ノート」 《大理石発掘現場に向かう》 手織りの折鶴をお礼に、それぞれの掌(てのひら)に置いた。青年が目を輝かせ言った。 折鶴だ!テレビで見たことあるよ!と。彼女の顔が上気していた。 日本の紙は美しい!折鶴は日本の優しさよ!嬉しい!今日は特別な日なのよ、きっと!黒髪の彼女は相棒にハグをした。 嬉しさが身体に満ち溢れていた。 折鶴の折方を2人に伝授して、日照りに焼ける大理石の石畳を踏みしめ大理石発掘現場に向かった。 折鶴教室に大切な時間である20分を使ってしまった。でも、感謝の笑顔をいっぱい頂いた。 ふたりの旅人は、親善大使だと思って、旅を続けてきた。 今までに、ポルトガルで折鶴を伝授した人数は300人はらくに越しているかも知れない。 暑い。30℃はゆうに越している。広場にある大理石で造られた白い噴水塔から水柱が噴き出ている。 近くに行って涼む時間はない。さっきタクシーが左折してきた白いロータリーを目指した。 持ち時間3時間40分のうち、残りは3時間ほどだ。 タクシーを乗ったヴィラ・ヴィソーザの町まで歩く時間は5キロメートル1時間半、いやこの暑さだ2時間はかかる、と踏む。 撮影時間は1時間しかない。 目印の赤い帽子が先を急ぐ。 その先には、青い蒼い碧い、広い広い広い、ポルトガルの空があった。 誰一人として歩く姿はない。1台の車も走って行かない、走って来ない。 この暑さ、この日照りだ。炎天下を歩くのは、日本人ふたりだけ。 木陰になる街路樹もない。ただただ、白く見えるぼた山に向かった。 「けいの豆日記ノート」 《白いロータリー》 道端に大理石の破片が積まれた[白いぼた山]の下を進むと、その先に白いロータリーが道の真ん中で強い日差しに焼かれていた。 直径8メートルほどの円形ロータリーの中央に、白い大理石で造った前かがみの鉱夫の姿がある。 彼は両手で工具を握っている。それは鉄で造られた本物の掘削ドリルであった。 相棒が膝まずき、円形の中に敷き詰められていた白い大理石の石ころを5個拾った。 記念のご褒美よと、嬉しそうな顔が暑い太陽で焼かれていた。 今夜は、シャワーを浴びて、痛てー!と絶叫するに違いない。 十字路の道路にある白いロータリーを右折して〈ヴィラ・ヴィソーザ〉に向かう一本道は、 大理石の白いぼた山しか見えぬ緑の草原地帯であった。 半袖のポーの腕は照りつける日差しで焼きつけられた。 相棒は夏の撮影時でも、いつも長袖を着ている。 暑いだろうと聞くと、焼かれた後処理の方が辛いと応えた。確かに暑いが、汗はだらだら流れない。 湿気が微々なのか、空気はさらさらしているようだ。 小学生のころ母の里である信州茅野(ちの)まで、ひとり新宿駅から中央本線の黒い煙を吐く蒸気機関車に揺られ、 夏休みの1カ月間を毎夏〈涼しい田舎〉で過ごした真夏日の日々をポーは思いだす。 木陰に入れば涼しく、採り立てのトマトを清水で冷やし、砂糖をつけて食べたあの美味さが脳裏をかすめた。 ああ、あの冷たいトマトを喰いたい!と・・・。 しかし、歩き続けるこの一本道には、木陰を作ってくれる樹が一本もなかった。 限りなく続く草原の道をときどき吹きぬけていく風が、一瞬の清涼をくれた。 それが、大理石発掘現場を撮りたいという初心に向かわせ、平静心を与えてくれたのだった。 「けいの豆日記ノート」 《大理石発掘現場》 歩いた。何でこの炎天下を30分間も黙々と歩き続けたのか。 大理石発掘現場に行きつき、その現場を体感し撮りたいと思う一心が相棒にはあった。 一心だけだった。今回は、カメラマンの執着心の旅だった。 ポルトガルでの[大理石発掘現場]の写真を見たことがなかったのだ。 車窓から[白いぼた山]をバスの車窓から見たとき撮ると、撮りたいと、相棒の心を支配していた。 その心を満たせたい、ここまで来たのなら撮らせたいとポーは思っていた。 灼熱の中を黙々と歩き続ける相棒に、夢の実現を現実の夢としてシャッターを押させたかった。 見えた。大理石を発掘している会社の門が炎天下を歩く先に突然、現われた。 白い大理石の門扉に《LAMARMORES,LDA.》と社名が刻まれていた。 その門を、入った。受付の守衛室もなかった。 その先には広大な敷地があり、そこには成形された平板の白い大理石が山積みされていた。 大きなクレーンで、3×4×5メートルほどの白く成形された大理石の塊(かたまり)が、ゆっくり天空から降りてきた。 この白い大理石の塊は、どこの国に輸出されるのだろうか。 そして、どんな人によって白い大理石がポルトガル大理石作品として、息を吹き返すのだろうか。 ワクワク、ワクワク、ポーの心を揺すった。 「けいの豆日記ノート」 会社の敷地内に入ったのに、誰も声をかけて来る人もいない。 相棒が走りだした。ポーも追った。 その先に、露天掘りの大理石発掘現場があったのだ。 相棒のカメラマンとしての勘が的中だった。 大理石は石灰岩。大理石は、品質としてピンキリだという。 ポルトガル大理石が使われている一つとしては、世界遺産として名高いリスボンのベレン地区にある 16世紀に建造された[ジェロニモス修道院]が名高い。 ここの南門の大理石を刻んだ彫刻は、見れば見るほどこころを溶かす。 その近くにある[ベレンの塔]もテージョ川沿いに建つ大理石で刻まれている作品だ。 ポルトガルを旅していると、ポルトガル大理石の建造物にいくつも出会えるのが楽しみであった。 その大理石発掘現場は、でかかった。 地表から発掘できる大理石が地下100メートトルほど直下的に彫り込んだ露天掘り大理石発掘場であった。 横幅150メートル、奥行き200メートルほどの広大な露天掘りの現場をふたりは唖然と見た。 はるか眼下深く、地下に見えた大型大理石運搬トラックが小指の一節より小さく見えた。 相棒のシャッターが小気味よく鳴っている。いいぞいいぞ、そのシャター音はと。 ポーはリズミカルな音に安らぎを感じていた。炎天下で思う幸せであった。 見上げた空は、白雲ひとつないポルトガルブルーで支配されていた。 この後、18時10分発の〈エヴォラ〉行きバスに〈ヴィラ・ヴィソーザ〉のバスターミナルから無事乗れたのは、 ふたりのぎりぎりの計画であった。 でも、よくも、1時間45分かけて炎天下を計画的に歩いてきたものだ。 よくスポーツ選手が、言う。「自分を、褒めてやりたいと!」 旅人、ふたりは、思う。 『あ〜、お腹が、すいたね〜え!』と *「地球の歩き方」参照*
終わりまで、旅日記を読んでくださり、ありがとうございます。 次回をお楽しみに・・・・・・・2011年7月掲載 |
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