パルメラで、バスを降りたとき確認しておいた16時発に乗ってセトゥーバルに戻り、今夜の宿を探した。
ここからが、けいちゃんの独演会だ。
ガイド本の地図を見ながら細い路地を右に左に曲がり、小さなホテルを見つける。
狭い階段を上がるとこじんまりしたフロントにかわいい女性。宿泊交渉。
一晩35ユーロ(4550円)朝食付きで手締めだ。
こう書くと、けいちゃんはポルトガル語堪能だと勘違いされる恐れがあるので、正直に言っておこう。
『おはよう』『ありがとう』だけ。でも、決めてしまう才能だけは確かにある。
笑顔と度胸。これしかない。
荷を解いて町に出た。セトゥーバルは工業都市だという。
でも、夕暮れが迫る町を歩いてサド川河口に向かったがそんな気配はない。
河口の公園には2月22日土曜日の夕景を楽しむ人々でいっぱいだった。
釣りをする人、散歩をする人、石畳に座って黄金色に変化するサド川の水面を見つめる人、
ベンチでキスをし続ける人、総ガラス張りのレストランで夕景を見ながらワインを飲む人、
そしてその人々をカメラにおさめる人がいた。
まるで1枚の絵を見ているような、のどかさがあった。
翌朝、2月23日は、曇り。ホテルの小さな食堂に入ると、8人の若い女性たちがいた。
京都からコインブラ大学に3週間の研修に来ていると言う大学生たちだった。
研修の合間を利用した小旅行の御一行様と写真家の出会い。話がはずんだ。
朝食のパンがパン屋からまだ届かず、ぼんやり待っていたこともあってか彼女たちはけいちゃんの写真取材の旅話を要求。
質問の一つ一つに丁寧に答える写真家は楽しそうであった。
やっと届いた焼き立てのパンをほおばり、笑い声もあって食堂研修は終わった。
そこに、日本人のおじさんが登場。まるでシナリオ通りの展開だ。
6日前、偶然モンサラーシュ行きのバスで出会った北九州からの1人旅をしているというおじさん。
彼は、定年後ポルトガルに住みたいので、その地を探しての旅だった。
旅の楽しさはこんな人に出会える嬉しさかもしれない。
名も知らず、偶然会ってまた別れる旅人同士。
朝食後、町から東に1.5キロにあるサン・フィリベ城に向かった。
「けいの豆日記ノート」から
まず、その地に来たら高いところに登る。
小高い山のてっぺんにある城跡に向かう。
フーフーいいながら、急な坂を登ると暑くてトレーナーを1枚脱いだ。
坂道にはいろんな花が咲いていた。黄色い花が多い。アザミのような花もある。
見たこともない花もある。冬なのに自然に咲いている花が多いことか。
てっぺんは、かつての要塞であった。ここからの眺めは最高。
サド川とトロイア半島、セトゥーバルの町が眼下いっぱいに飛び込んでくる。
反対の山の斜面には風車が見えた。でも、写真としては空がいまいちで期待できない。
城跡の1部が高級ホテルのポサーダだ。
そこでトイレだけ借りて、坂道を下る。下りは、あっという間。
町についてサド川に向かう。空が青くなってきた。やったー。
色とりどりの船に青い空。アヴェイロに次ぐあざやかな写真が撮れそう。
いい空だ。ほんとに!
マヌエル様式のはしりだというイエスの教会を見ることにした。
市庁舎のすぐ近くにあった。あまり、期待していなかったが中に入って感動した。
リスボンにあるジェロニモス修道院を手がけたフランス人建築家ボイタックが建築を担当していた。
マヌエル1世の命のもとに、1491年に建てられたこの教会はポルトガル建築史上の記念碑的作品だという。
教会としてはそれほど広くなかったが、柱に特徴があった。
柱がねじれ三つ編み状に高い天井に向かって伸びていた。
その柱の間に20基ほどの木の長いすが黒光りして並び、その先に十字架を背負ったキリスト像があった。
室内は自然光が天窓から差し込み厳粛な雰囲気をかもし出していた。
ねじれた3本の柱は、キリスト教の三位一体を表現しているという。
心地よかったので、ここで1時間ばかり時を過ごした。
もちろん、けいちゃんの放つシャッター音が教会の中に響き、それがまた心地よかった。
イエスの教会は心のなかに残った・・・。
「けいの豆日記ノート」から
昼食は、せっかく河口の町に来たのだから魚を食べたいと思ってレストランを探す。
探さなくても店の前で魚を焼いているので、すぐわかる。
大きなレストランの入り口の前のケースに魚が山のように積んである。
ウナギを輪切りにしてそのまま塩焼きをしている。
芸がない料理法だが、いくらするのか聞いてみた。
計り売りで、1匹15ユーロ(2000円)するというのでやめた。
小さいレストランでアジを焼いていた。大きいアジが1皿に5匹で2ユーロ(270円)。
新じゃがを丸ごと茹で、にんにくオイルがかかっているのとアジを頼む。
隣の人が食べていて美味しそうだったので。
「(ジャガイモの)おかわりは?」と聞いてくれたが断ってしまった。
それはサービスだということが勘定してわかったが、後の祭りだった。
『あーあ、もっと食べておけばよかったー!』
フェリーに乗ってリスボンのホテル・ベルナについたのは夜の8時。
スーパーで調達した野菜でサラダを作り、マヨネーズで食べる。
それが夕食だった。実は、これが、一番うまい!